他誌がマネしたくてもしきれない! 実売部数48万部超の雑誌『ハルメク』のヒットの秘密
シニア女性の生き方、暮らし、ファッションなどを中心に、親しみのあるコンテンツを読者に届けている雑誌『ハルメク』。おかげさまで、女性誌販売部数No.1※で48万部(2022年7月発売)を超え、躍進が続いています。その躍進の秘訣を探るべく、編集部とは異なる部署のハルイロ部員が、『ハルメク』編集部へ潜入取材を敢行しました。
※日本ABC協会発行社レポート(2021年7月~12月)
制作準備は6カ月前から始まっている!?『ハルメク』独自の編集フロー
「『ハルメク』編集部では、その号の制作に入る前にさまざまな準備段階があります。その中でも、肝になるのは“n-4(エヌマイナスヨン)”と呼ばれる雑誌のトップを飾る特集記事の会議。これは編集部以外に、マーケティングの部署や広告の部署など本誌に関わるあらゆる社員が加わり、企画内容を決定します。編集部内の2名が、誌面の具体的な制作に先立ち準備をする『先行担当』として準備をします」
そう話してくれたのは、今回のn-4会議の先行担当で、『ハルメク』編集部員のひとりであるOさん。なんと、号のテーマが決まってからすぐに取り掛かるのではなく、いくつもの調査や裏取りをしたうえで制作が始まるそう。正確に分けると、制作前に行われる工程は、担当者内で識者に事前取材、編集部内ブレスト、ニーズ調査、テーマの方向を決定するための受容度調査、n-4事前確認ミーティング、n-4会議の6つ。テーマによっては、読者を呼んで座談会を開くことも。nとは発行月のこと、その「マイナス4か月前」に方向性を決定しましょうという意味だそうです。この一連の工程を調査専門の部署がやっているのではなく、編集部員が行っているということに驚きます。
読者のニーズを先に把握するからこそ、ハズレのない企画が出来上がる
そんなに手間をかけるのは一体なぜなのか? そこには、雑誌販売が低迷した時代のやり方を変えようという、当時の編集部の方針転換がありました。今までの制作フローではなく、事前会議を設け他部署にもオープンな状態で内容を決めていくことに。最初は他部署も含めた会議のみだったのが、より内容の確度を高くしていくためにと、ニーズ調査やテーマの受容度調査などが増え、今の形に落ち着きました。それにより、『ハルメク』にとっていい影響が生まれたとOさんはいいます。
「この工程を踏むことによって、読者の反応がよくなり、そして私たちも制作しやすくなりました。会社全体で方向性を事前に共有できるので、後々の齟齬も生まれにくいのです。また、ここまで徹底的に調べてから制作するので読者のニーズを外しにくくなるというのはありますね。ネット号とかは特にそうです。ここはわかるだろうと思っている部分も実はもっと前段階でわかっていなかったりするので、じっくり読者にヒアリングすることが大切です。」
確かに企画進行前に読者の実情を調査していれば、的外れな内容にはならない。先行担当は、企画が始まる前にこの読者のニーズをしっかりリサーチすることを大事にしているといいます。
「ネット特集の例を挙げると、『私はロボットではありません』という画面の表示の意味がまったくわからない読者がいたりします。そういう“わからない”ところやレベル感をしっかり押さえておくところが大切です。また、事前にリサーチしてみてわかることもあります。新しい切り口の特集の際は事前に読者座談会を開き、一体何が気になるのかを徹底的にヒアリングします。その結果、思惑とずれていて第一特集にできないケースなどもありますが、事前にずれているとわかれば第二・第三特集にするなど対策が練れます」
愚直に読者の悩みを聴き、『ハルメク』らしくあれ
徹底した読者理解があるからこそ、女性誌No.1を保ち続けられているのでしょう。n-4会議がなかったらどんな雑誌になっていると思うか聞いたところ、Oさんからはこう返ってきました。
「うーん。かっこいいけど役に立たない雑誌、ですかね。『ハルメク』はいい意味であか抜けすぎないというか、読者の悩みを起点に愚直に作っています。流行ばかりを追求した雑誌ではうちの読者は満足しないのではと。常に読者に寄り添った誌面づくりが必要だと思っています。なので、同じ読者層の他誌が『ハルメク』をカタチだけマネしてもなかなか難しいかもしれません」
また、『ハルメク』らしさを突き詰めるのに欠かせない、識者も大事なポイントのひとつ。
「お願いする先生には、専門分野の知識と、読者の目線に立ってくださる2つの要素が必要です。今回担当した美容号では、リンパケアに詳しい木村友泉先生を大々的に起用しました。木村先生は、とても読者目線に立ってくださる方。体験企画の読者とLINEグループを作り、日々の体調の変化などをやりとりし、読者の毎日のフォローとモチベーションアップまで率先してやってくださいました」
識者も読者優先で考えてくださる姿勢は、頭が下がる思いです。そういった読者目線の価値を追求することが、雑誌の支持につながっているのだと実感させられます。
目指すのは新規読者も既存読者も飽きないような誌面づくり
売れているとはいえ、まだまだ課題もあるとOさんは続けます。
「人気の企画でもずっと作り続ければいつかは飽きられてしまいます。識者をどう探してくるか、企画自体も飽きられる前にガラッと変えるのかなど、新しい芽をどう作るか考えていかなければいけません。あらゆる部分で“決断力”をつけることが課題です。長年ご愛読いただいている読者も新しく読み始めた読者も、どちらも飽きないような誌面づくりをしていきたいです。」
ここ数年の躍進の秘密には、きっと何かすごいことがあるはず! と思って取材を始めましたが、そんな華々しいものではなく、地道な“仕込み”があり、ニーズを愚直に追求することで、読者の心を離さないでいられることがわかりました。一朝一夕でマネしにくい取り組みが何よりの競争力なんですね。これからも、読者に寄り添った誌面を楽しみにしています!Oさん、ありがとうございました!
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取材・文/ゆりか 写真/貴嗣(ともにハルイロ編集部)
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